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大阪高等裁判所 昭和41年(ネ)198号 判決 1967年9月12日

理由

被控訴人が本訴請求の原因として主張する事実は、本件の各約束手形がいずれも控訴人によつて振り出されたものである旨の主張部分を除いて、被控訴人の主張に副う各手形要件及び裏書の記載がある甲第一、二号証の各一、二の本件手形を被控訴人が所持することが弁論の全趣旨から明らかであることにより認められる。

そこで、本件各約束手形が控訴人の振出に係るものであるかどうかについて判断するに、書証の成立について当事者間に争いがない甲第三号証に押捺されている控訴人の印影と、甲第一、二号証の各一中の振出人としての控訴人の名下の各印影とは、同一の印鑑から顕出されたものであることがその対照の結果認められるので、本件各約束手形中表面すなわち振出部分は真正に成立したものと推定せられ、いずれも控訴人がこれを振り出したものであると推認することができる。

控訴人は右約束手形二通はいずれも訴外北山弘司が偽造したものであると主張するので案ずるに、なるほど、《証拠》によれば、本件約束手形二通中の振出人としての控訴人の各署名は、いずれも控訴人の息子である右北山弘司においてこれを記載したのであつて、控訴人自身の筆蹟ではないことが認められるけれども、《証拠》を綜合すれば、

一、本件各約束手形の受取人である訴外首藤工業株式会社は、控訴人から大阪市東淀川区三津屋北通二丁目三五番地上の通称北山ビルの建築工事を請け負つたが、右請負契約の締結及びその実施に関しては、前記北山弘司が控訴人を代理して右訴外会社との交渉取引の衝に当つたこと、

二、右工事の請負代金として控訴人から訴外会社に第一回目(契約時)に支払うもののうち額面合計金四〇〇万円相当の約束手形の振出については、前記北山弘司が控訴人に代つてこれを作成して受取人である右訴外会社に交付したこと、

三、本件各約束手形の振出当時には、北山弘司は控訴人の一般の業務についても控訴人を補佐していたのであつて、控訴人は右北山弘司に対し本件各約束手形に押捺されている印章の保管を委託し、同訴外人が控訴人の業務を控訴人の名義で代行することについて事前の承認を与えていたこと、

を認定することができる。右認定の諸事情と右認定に用いた各証拠とを綜合すれば、本件の各約束手形は、控訴人の指示によつて北山弘司が作成したものであるか、又は右北山弘司はかねて控訴人から前示北山ビルの建築に要する経費の支出に関し、控訴人の名義で約束手形を振り出す権限を与えられていて、本件各約束手形も北山弘司が右権限に基づいて振り出して前記訴外会社に交付したものであるかのいずれかに当るのであつて、同訴外人が右約束手形を作成する権限もないのにこれを偽造したものと認めるに足りず従つて前記本件各約束手形振出部分の真正成立の推定を動揺せしめない。

《反証排斥部分省略》

以上のように、本件各約束手形は控訴人振出のものとして適法有効であつて、これを控訴人の作成名義を詐つた偽造無効の手形であると主張する控訴人の主張は採用できない。控訴人が当審においてする主張する法律論は、北山弘司が控訴人を代理して控訴人名義の約束手形を振り出す権限なく、且つ控訴人に無断で本件各約束手形を振り出したことを前提とするものであるところ、前認定のように、本件では、北山弘司は本件各約束手形の振出について、控訴人から具体的指示を受けたか又は事前に一般的な振出権限を与えられていたかのいずれかであると認むべきであるから、右法律論はそれ自体の当否について判断するまでもなく本件の場合には妥当しない。控訴人のこの点の主張は理由がない。

よつて、被控人の本件手形金計二〇〇万円とこれに対する訴状送達の翌日たること記録上明らかな昭和四〇年六月一九日から商法所定年六分の遅延損害金の支払を求める本訴請求を認容した原判決は正当であつて、本件控訴は理由がない。

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